ロケットの打上げ中継で、管制室の歓声と轟音が画面を満たす。映るのは重工大手の技術者か、資金調達で話題の新興企業の経営者である。地方の工場で金属を削り、材料を調合している会社の名前は、そこには出てこない。
だから宇宙は、自社とは無縁の市場に見える。国の目標は宇宙関連市場を2020年の4.0兆円から2030年代早期に8.0兆円へ倍増させることで、総務省の資料が引く世界経済フォーラムの推計では世界の宇宙ビジネスは2023年の約3,300億ドルから2035年に7,550億ドルに達する。華やかな数字ではあるが、総務省所管の採択先に並ぶのも情報通信研究機構、日本電気、三菱電機、楽天モバイルなどである。中堅企業が立ち入る場所はなさそうに映る。
だが、基金の表はそう読めない。
基金はいったい誰を探しているのか
内閣府の資料によれば、宇宙戦略基金は宇宙航空研究開発機構に設けられ、令和5年度補正予算で3,000億円を計上し、10年間で総額1兆円規模の支援を目指すものである。最初の実施方針に並ぶ22のテーマを額で見ると、商業衛星コンステレーションの構築加速化が950億円程度と目立つ。しかし同じ表には、衛星サプライチェーン構築のための部品・コンポーネント開発・実証が180億円程度、固体モータ主要材料の量産化が48億円程度とある。後者は国内のモータ材料サプライヤによる供給能力の向上を掲げている。
2030年代前半までに基幹ロケットと民間ロケットの国内打上げ能力を年間30件程度確保するという目標と合わせて読めば、問題の所在が変わる。回数を増やすとは、一品ものの試作から、品質と価格と納期を揃えた量産への移行を意味する。資料自身が、重要な部品やコンポーネントについて品質・コスト・納期の解決に必要な技術開発を求めている。足りないのは旗を振る主役ではなく、数を供給できる脇役なのではないか。
重工大手にとって個々の部品の量産は本業ではなく、小規模な工場には設備と品質保証の負担が重い。そのあいだに、精密加工や電子部品、素材の量産技術を持つ中堅企業が立つ余地がある。問題は、その余地に入るための資金である。
補助率の表は、中堅に何を告げるのか
補助率の表を読むと、基金が技術の成熟度に応じて企業の負担を変えていることが分かる。事業化に近い区分では、補助率の上限は市場の成熟度が高い場合で大企業2分の1、中小企業とスタートアップは3分の2、成熟度が低い場合で大企業3分の2、中小企業とスタートアップは4分の3である。資料が定める中小企業の定義を超える中堅企業は、この表では大企業の欄で読むことになる。つまり新興企業より重い自己負担で、量産という長い話に入っていく。
なお悪いことに、補助は売上ではない。実施期間は最大10年の範囲でテーマごとに定められ、間接経費は民間企業等への補助事業で直接経費の10%が上限である。工場の管理部門や品質保証の費用をどこまで賄えるかは、この上限に縛られる。しかも総務省の資料によれば、同省所管の第一期は支援上限額の総計225億円に対し契約・交付決定済額は112億円、第二期は436億円に対し164億円である。注記の通り、決定済額は最初のステージゲート評価または中間評価を含む年度末までの分であり、上限額も評価によって変わりうる。採択の報道で見える金額と、その時点で約束された金額は別物である。
何年、無収入の量産準備に耐えられるのか
宇宙部品の参入を阻むのは技術ではない、と言えば言い過ぎであろう。しかし技術を持つ企業ほど、問われるのは持久力である。評価を通るたびに次の段階の資金が開く仕組みは、規律としては合理的である一方、受ける企業にとっては次の資金が確約されないまま人と設備を手当てする期間を意味する。
そのため資金設計は、基金の外側から組むことになる。自己負担分は既存事業のキャッシュフローで賄える範囲を上限とし、残りを長期の借入で手当てするとしても、評価で打ち切られた場合に残る設備が既存事業に転用できるかを先に確かめておく。専用性の高い設備はリースや段階的な導入を検討し、汎用性の高い設備に長期の固定金利を当てる。補助金の精算と入金の間隔に備えた運転資金の枠も要る。金利が上がる局面で、回収の見えない投資を変動の短期資金で賄うことは避けたい。
回収の時間軸も既存事業とは異なる。国の成果目標は2030年代に置かれており、総務省の案件でも上市等の目標は2033年度である。量産の受注がその先に立つとすれば、回収期間は通常の設備投資の感覚をはるかに超える。金融機関に説明できる返済の根拠は宇宙の売上ではなく、既存事業の利益と、部品の他分野への転用に置くほかないのではないか。自己資本に厚みを持たせる資本性の資金は、そこで初めて意味を持つ。
中継の画面の外で、誰の10年が燃えているのか
次の打上げでも、画面に映るのは管制室と炎であろう。だが年間30件という目標の裏側には、数をそろえる工場の仕事が要る。カウントダウンの声を聞きながら、自社の決算書を開く経営者がいてもよい。その10年を、どの資金で燃やし続けるのか。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。