成長市場

越境ECは訪日客の余波か。米中が日本から買う4.2兆円の資金設計

海外向けのネット販売は、訪日客の土産需要の延長か、一部の有名ブランドの話と見られやすい。だが統計が示す規模と伸びは、その見方で説明がつくのか。売上より先に膨らむ資金の問題を問う。

ドリサポ編集部読了 約5分

空港の出発ロビーで、大きな袋を抱えた旅行客が化粧品や菓子の棚の前に列をつくっている。帰国すれば買えないから、ここでまとめて買うのであろう。日本の商品の人気と聞いて、多くの人が思い浮かべるのはこの光景である。

だから海外向けのネット販売も、同じ延長線で語られやすい。訪日客が持ち帰った評判の余波であり、為替が円安に振れた間の一時的な追い風であり、有名ブランドを持つ一部の大手の話だ、という見方である。国内を見れば、経済産業省の令和6年度電子商取引に関する市場調査で、2024年の物販分野のネット販売は15兆2,194億円、前年比3.70%増である。日本の小売の主戦場はあくまで国内にあるように映る。

だが、統計の別の欄はそうは言っていない。

日本から買っているのは、本当に一部の客なのか

同じ調査によれば、2024年に中国の消費者が日本から越境ECで購入した額は2兆6,372億円で前年比8.5%増、米国の消費者が日本から購入した額は1兆5,978億円である。合わせれば約4.2兆円となり、国内の物販ネット販売の3割近い大きさに相当する。逆に日本の消費者が米国と中国から買った額は4,410億円にすぎない。米中との間に限れば、日本は買う額のおよそ10倍を売っている計算になる。

国内の数字と並べると、もう一つの構図が浮かぶ。物販分野のネット販売比率は2024年に全体で9.78%だが、品目で見ると差が大きい。生活家電やパソコン関連は43.03%、書籍や映像ソフトは56.45%に達する一方、食品・飲料・酒類は4.52%、化粧品・医薬品は8.82%、自動車関連の部品等は4.16%である。国内で伸びしろがあるとされる品目ほど、作り手の多くは自社の販路を十分に持っていないのではないか。

つまり越境ECの数字は、訪日客の余波というより、日本の作り手や卸に届く需要がすでに国境をまたいで動いていることを示している。問題は、その需要に誰がどの形で応じているかである。

売る力より先に足りなくなるものは何か

海外販売の議論は、たいてい翻訳や広告、販売サイトの選び方に向かう。しかし事業として続けられるかを分けるのは、もっと地味な部分である。国内の卸に納めれば、在庫は納品の時点で手を離れ、代金も取引先の信用で回収できる。自ら海外の消費者に売れば、発注から入金までの間、在庫も為替も配送の遅れも返品も自社に残る。売上が増えるほど、手元の現金は先に減っていく。

国内の事情も楽観を許さない。同調査によれば、大手宅配3社の2024年の取扱個数は46.9億個で前年比1.1%の増加にとどまり、中小・零細の運送事業者の価格転嫁は弱いとされる。クレジットカードの不正利用被害は2023年に累計540.9億円で、前年からおよそ24%増えた。物流と決済の費用は、販売量が増えても自動的には下がらない。

かくして本当の障壁は、需要の有無ではなく、需要に応えるあいだ在庫を抱えていられる資金の厚みに移る。ここに中堅企業の位置がある。単品の作り手には抱えられない在庫の量と品揃えを、大手のように全世界展開とは言わず、特定の国と品目に絞って持てるのは、年商数十億円から数百億円の製造業や卸である。地域の食品や化粧品、自動車部品の作り手を束ねる役割も、自社の販路として取り込める可能性がある。

為替の追い風は、どこまで借入の根拠になるのか

資金の設計で最初に問うべきは、この事業を設備投資と見るか運転資金と見るかである。倉庫や検品の設備は長期の借入に馴染むが、海外向けの在庫は売り切れるまでの期間が読みづらい。短期の枠を繰り返して在庫を賄えば、販売が滞ったときに資金繰りの逆回転が起きる。商品の回転日数を国別に測り、その長さに合う期間で調達するのが基本である。

公的な枠組みとしては、日本政策金融公庫の中小企業事業に海外展開・事業再編資金があり、融資限度額は直接貸付で14億4千万円、期間は設備資金で20年以内、運転資金で10年以内、据置はいずれも原則2年以内である。国内市場の縮小などを理由とする展開も対象に含まれる。使えるかどうかは規模や要件によるが、長期の運転資金という発想そのものが、海外販売の時間の長さをよく表している。

為替については、円安を前提にした採算で元本の返済計画を組まないことが要る。海外での売上は現地通貨で積み上がり、仕入れと返済は円で出ていく。為替が想定より円高に動いたときに、既存事業のキャッシュフローで何年の返済を支えられるかを試算し、在庫の上限をそこから決める。利益が出ていても現金が尽きるという事態は、この順序を逆にしたときに起きるのである。

出発ロビーの列の先に、誰の在庫があるのか

空港の棚の前の列は、今日も伸びているのであろう。しかしその列の外側で、米中の二国だけでも約4.2兆円が日本の商品に向けて動いている。旅行客が袋に詰めた商品と同じものを、次は誰が倉庫に積み、どの資金で売れるまで持ち続けるのか。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。

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