本社の総務部の机の上に、ハローワークからの通知と求人票の控えが積まれている。法定の人数まであと1人。採用の面接を重ねても配属先が決まらず、期末が近づくと納付金の見積もりが回ってくる。多くの管理部門にとって、障害者雇用はこの光景の中にある。
これは法律が課す費用であり、経営の話ではないと考えられがちだ。2026年7月に法定雇用率は2.5%から2.7%に上がり、対象は従業員37.5人以上の企業へ広がった。報道によれば、100人超の企業が未達成なら不足1人につき月5万円の納付金が生じる。厚生労働省の令和7年の集計では、民間企業の雇用障害者数は70万4,610人で22年連続の過去最高であるのに、達成企業の割合は46.0%にとどまる。半数以上が届かない基準を、重ねて引き上げるのはおかしいという経済団体幹部の声も報じられた。費用と規制の話として読めば、それで終わる。
だが、足りないのは人数ではない。
未達成企業の内側で、何が欠けているのか
同じ集計を細かく見ると、未達成企業は令和7年で6万5,033社ある。そのうち不足が0.5人または1人の企業は64.0%を占める。雇用が0人の企業は3万7,262社で、未達成企業の57.3%である。つまり未達成の大半は、大量の採用を迫られているのではない。一人分の、確かな仕事を社内に持っていないのである。
規模別の数字は、この問題が中堅の層で際立つことを示す。達成企業の割合は1,000人以上で57.5%に上昇した一方、500人から1,000人未満は44.5%、300人から500人未満は40.3%で、規模別で最も低い。100人から300人未満は48.6%である。令和7年4月の除外率の10ポイント引き下げも、効いている。除外率は建設業や道路貨物運送業などで20%から10%に下がった。業種別の実雇用率は医療・福祉の3.02%に対して製造業2.42%、情報通信業2.06%、建設業2.00%で、達成割合は情報通信業で28.5%にとどまる。
納付金で計算すれば、不足1人で年60万円である。従業員の人件費と比べて小さく、払って済ませる判断も成り立つように見える。雇用しない理由はそこにあるのか。答えは、もう少し先にある。
なぜ雇用の問題が、業務設計の市場になるのか
働く人の構成が変わっている点を見落とすと、話を読み違える。令和7年の雇用者のうち精神障害者は16万8,542人で前年比11.8%増であり、身体障害者の1.3%増を大きく上回る。求められるのは段差の解消のような設備の話だけではなく、業務の切り出し、手順の標準化、指導員の配置、定着の支援といった、仕事そのものの組み替えである。特例子会社は631社で前年より17社増え、雇用する障害者は5万3,710.5人まで増えた。大手が子会社という器で進めてきたものを、独自の器を持たない中堅がどう実現するかという問いが残っている。
費用として見るか、業務の再設計として見るか。この対比に立つと、需要は二つの方向に現れる。内に向かう需要は、自社の中で定型業務を切り出し、属人的だった仕事を手順に落とす投資である。人手不足の現場では、これは障害者雇用に限らない生産性の話にもなる。外に向かう需要は、こうした設計や職場の改修、清掃や軽作業などの受け皿を、同じ地域の企業に提供する事業である。未達成の6万社の多くが一人分の仕事に苦しんでいるなら、一社では成り立たない規模の仕組みを束ねて提供する余地がある。全国展開の大手には細かく、小規模な事業所には負担が重い。
助成金を当てにする前に、何を計算するのか
投資の採算は、納付金の減少額だけでは測れない。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の案内によれば、法定を超えて雇用する100人超の事業主には1人月額2万9千円の調整金がある。鹿児島市の案内は、作業施設の設置等の助成金は対象費用の3分の2、福祉施設の設置等は3分の1と記す。ただし支給には限度額があり、特例子会社の設立費用は作業施設の助成の対象から外れる。子会社という器を選ぶなら、その立ち上げには自己資金か借入を当てることになる。
資金の組み方は、人を雇う費用と場をつくる費用を分けるところから始まる。人件費と指導員の費用は毎月続く固定費であり、既存事業のキャッシュフローで賄える人数を上限とする。作業場の改修や設備には、助成金の入金までのつなぎと長期の借入を組み合わせる。入金は後になる以上、助成額を返済原資に組み込むにせよ、立て替えの期間を運転資金の枠で見ておかねばならない。受託事業として外に売るなら、売上が立つまでの赤字期間を資本性の資金か自己資金で支えられるかどうかが、借入より先の問いとなる。金利の上昇局面では、回収が長い投資に変動の短期資金を当てないのが基本であろう。
積まれた求人票は、何を問うているのか
総務部の机の上の通知は、これからも届く。令和6年度に障害者雇入れ計画の作成を命じられた企業は446社で、基準は2.7%まで上がった。とはいえ問われているのは、求人票の枚数ではないのかもしれない。社内のどの仕事を、誰がどう分けて、その準備にどの資金を当てるのか。その設計図を持つ会社の数は、まだ少ない。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。