道路の片側を塞いで地面を掘り、作業員が古い管を入れ替えている。渋滞の原因として舌打ちされるこの工事は、地方の町でも見慣れた光景である。なぜ今その管を替えるのかを考える人は、あまりいない。
水道については、人口減少とともに縮む事業だという見方が強い。水を使う人が減り、料金収入が減り、町の設備業者の仕事も先細っていく。総務省の資料が引く見通しでは、有収水量は2050年頃にピーク時の67%程度まで減る。給水人口1.5万人未満の事業では、2010年から2040年の人口減少率が全国平均16.1%の2倍を超えると見込まれている。どこから見ても、縮小の数字である。
だが、縮むのは売上だけかもしれない。
仕事を減らしているのは、本当に人口なのか
同じ総務省の資料を読み進めると、数字の向きが変わる。令和5年度決算統計によれば、水道の管路経年化率は全国平均で25.4%まで上がり、管路更新率は0.61%にとどまる。令和3年度の更新ペースのままなら、すべての管路を更新するのに約150年かかる計算だという。投資の面では、2011年から2020年度の年間平均が約1兆3千億円だったのに対し、2021年から2050年度に必要な更新投資は年約1兆8千億円と試算され、年約5千億円の差がある。
下水道も遅れて同じ道をたどる。総延長約49万kmの管渠のうち、標準耐用年数の50年を過ぎたものは約3万km、総延長の約7%だが、20年後には約20万km、約40%に増える見通しである。つまり、水の売上が減る一方で、工事の量は増える方向にある。しかも発注する側の人手が足りない。水道事業の職員は昭和55年の7.6万人から令和5年の4.2万人へ、44.2%減った。
かくして問題は、需要の縮小ではなく、更新を設計し管理する能力の不足として現れる。上水道の料金回収率が令和4年度で97.5%、簡易水道が52.9%という数字は、料金で更新を賄う余力の乏しさを示している。カネもヒトも足りない自治体が、工事だけは増やさなければならない。
なぜ発注の形が変わると、担い手も変わるのか
国の答えが、ウォーターPPPと呼ばれる水の官民連携である。国土交通省のガイドラインによれば、これは運営権を民間に渡すコンセッション方式と、管理・更新一体マネジメント方式の総称で、後者は10年の長期契約を原則とする。内閣府の概要資料が示す要件は、長期契約、性能発注、維持管理と更新の一体マネジメント、そして費用を縮減した分を官民で分けるプロフィットシェアである。目標は令和13年度までに上下水道で200件とされた。下水道では、汚水管の改築の国費支援について、耐震化など一部を除き、導入を決定済みであることを令和9年度以降の要件にすると定めた。
これは単なる委託の拡大ではない。工事の注文を一件ずつ受ける仕事が、10年分の性能を請け負う仕事へ変わるのである。大手の話に見えるが、国土交通省の水道の官民連携の手引きは、広域の委託で地元企業の受注機会が下がる可能性に触れ、地元企業とのJVを参加要件にしたり、活用を加点したりする配慮が一般的だと記す。群馬東部水道企業団では地元工事会社の育成なども目的に、老朽管の工事でコンストラクションマネジメント方式を採用した。全国の大手には細かく、町の工事会社一社には長すぎる契約。そこに地域の中堅の設備企業や建設会社が入り込む余地がある。
10年の契約は、資金繰りを楽にするのか
長期契約と聞けば、収入が読めて資金繰りは安定すると思うだろう。半分は正しい。売上の見通しが立つ分、金融機関との対話の材料は増える。だが管路は仕様発注から段階的に性能発注へ移るとされ、移行が進むほど、老朽管の状態という読みきれない要素の一部が受託者の側に移る。掘ってみて初めて分かる状態が見積もりから外れれば、その差は受託者の資金繰りに直接響く。
だから資金の組み方は、契約の仕組みから逆算することになる。更新実施型なら工事の立て替えが膨らむため、出来高と支払いの間隔に合わせた運転資金の枠が要る。更新支援型なら重機よりも技術者の採用が先に立ち、その人件費を既存事業のキャッシュフローで何年支えられるかが問題となる。調査機器や車両はリースで受け、契約期間を超えて残る資産には長期の借入を当てる。金利が上がる局面では、固定の費用と10年の契約金額の物価調整の条項を突き合わせ、どこまでを自社が負うのかを確かめねばならない。
JVで入るのであれば、出資比率と責任の範囲も財務の論点である。プロフィットシェアで得られる取り分は、努力の成果である以上、借入の返済原資に見込むには不確かである。返済計画は、それがなくても回る水準に置くのが筋であろう。
掘り返された道路に、誰の10年が埋まるのか
道路工事の看板の前で、人は相変わらず迂回の案内に従うのであろう。だが約150年という計算は、この工事が減るどころか足りていないことを告げている。町の設備業者にとって縮小の象徴に見えた管路は、次の10年の契約書の中身になりつつある。その契約を、どの期間の資金で受けるのか。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。