薬局のカウンターで、いつもの薬が今日は揃わないと告げられ、別の会社の製品を勧められる。そうした場面に覚えのある人は少なくないはずである。厚生労働省の資料によれば、2024年10月の調査で医療用医薬品の19%にあたる3,103品目が限定出荷か供給停止の状態にあった。
この光景は、後発医薬品という事業の弱さとして語られがちである。薬価は下がり続け、儲からないから作らない。市場が細っているのだから、撤退が出るのも当然だという見方である。
だが、市場は細っていない。
勝ったはずの産業が、なぜ供給できないのか
数字は通説と逆を向く。厚生労働省の検討会報告書によれば、後発医薬品の使用数量割合は過去15年で約35%から80%へ上がった。令和7年8月に公表された数量シェアの全国平均は91.3%である。政策目標を超えて普及した製品が、同時に供給の不安の中心にもなっている。2024年5月時点で出荷停止か限定出荷となっていた3,906品目のうち、後発医薬品は2,589品目と約66%を占めた。
企業の数も、淘汰の物語とは一致しない。同じ報告書によれば、後発医薬品を扱う企業は2009年の225社から2023年の190社へ減ったにすぎない。主に後発品を扱う105社のうち86社が中小企業であり、51社は取り扱いが9品目以下、51品目以上は25社である。その一方で、数量シェア上位9社が市場の50%を占める。2024年4月までに21の企業が薬機法違反で行政処分を受けたという事実も、この裾野の広さと切り離しては読めない。
つまり、問題は需要の不足ではない。多くの企業が少量多品目の生産を続け、製造の能力が広く薄く分かれている形にある。需要は積み上がったのに、供給が束ねられていない。
統合の受け手に、なぜ大手だけでは足りないのか
政策の焦点は価格から構造へ移った。報告書は5年程度の集中改革期間を掲げ、令和7年法律第37号の改正で後発医薬品製造基盤整備基金の根拠が整えられた。令和7年度補正予算には844億円が計上され、品目統合や事業再編の計画を認定された企業に、生産性向上の設備投資と企業間調整の経費を補助する。補助率は基金と事業者で2分の1ずつである。
品目統合という言葉は、やめる企業の話に聞こえるかもしれない。しかし統合には必ず受け手がいる。別の会社の品目を引き継げば、そこに残された数量が移ってくる。上位の企業だけで全成分を抱えられるわけではなく、9品目以下の企業には引き受ける設備も管理体制も足りない。その中間で、特定の剤形や成分群に強みを持つ中堅の製薬企業に、品目を集約する役割が回ってくる。後発医薬品を売る市場というより、製造の能力を集める市場と呼ぶ方が実態に近い。
補助金の半分の外側に、何が残るのか
こうして資金の話は、投資額の半分から先に始まる。先行する令和7年の補助事業の公募要領を見ると、設備整備の補助上限は1社10億円、調査の補助上限は2億円で、人件費や設備の撤去費などは対象外とされた。統合先の要件には、既存設備で生産効率を上げてもなお需要見込みに応じられないことが含まれ、事業完了後の施設の保全や維持管理の費用を自社で賄えることも求められる。基金の要件は公募ごとに確かめる必要がある。
かくして受け手の企業は、自己負担分だけでなく、対象外の費用、薬事手続の間の立ち上げ費用、在庫の積み増しまでを含めて資金を組むことになる。設備は長期の借入で受け、回収は薬価の改定を織り込んで試算するほかない。売価が公定で動く事業に変動金利を重ねれば、値下げと金利上昇を同時に受ける年が生じる。固定の比率を高めるのか、資本性の資金で返済負担を軽くするのか。その判断は統合後の数量がどこまで確実かに左右され、品目を手放す側との契約期間や供給義務の内容が、借入の年限を決める材料となる。
買収を伴う場合は、なお慎重さが要る。買うものが工場である以上、製造管理の状態は価格の問題であると同時に、事業の継続そのものの問題である。先の公募要領も、2年以内に行政処分を受けた事業者を原則として対象から外している。財務の調査と品質の調査を分けて考えると、後で資金計画ごと崩れかねない。
カウンターで告げられる言葉は、変わるのか
薬局で揃わない薬は、これからもしばらくは現れるのであろう。だがその背後で起きているのは、一つの業界の衰退というより、190社に散った製造の能力の組み替えである。代わりの製品を勧められるあの場面は、次に誰の工場からその薬が届くのかを問う場面でもある。5年という期間を、10年の借入でどう受け止めるのか。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。