地方の町の夕方、ほとんど空のまま走る路線バスの横を、病院や介護施設、宿の名前を書いた送迎車がすれ違っていく。バス停の時刻表には減便の貼り紙があり、同じ道を複数の小さな車が別々に走っている。多くの人が見慣れた、どこか奇妙な光景である。
地域交通の苦境は、人口減少の帰結だと説明されることが多い。人が減り、車が普及し、乗る人がいなくなったのだから、バスが採算に合わないのは当然だという理解である。交通政策審議会の部会とりまとめ案によれば、令和5年度に路線バス事業者の約74%、地域鉄道事業者の約83%が赤字であった。平成20年度から令和5年度の間に廃止された路線バスは約23,193kmにのぼる。
だが、移動は消えていない。
乗る人がいないのか、運ぶ形が合わないのか
令和6年度に運転免許の自主返納は年間約43万件を数えたと、国土交通省の資料は記す。部会のとりまとめ案は、交通空白が都市部を含む全国約2,500の地区・地点に発生していると記す。乗りたい人がいないだけなら、都市部にまで空白が現れる説明がつかない。
供給の側では、別の制約が先に効いている。国土交通省の法律案の概要によれば、バスの運転者は平成28年度から令和5年度の間に1.9万人減って11.4万人となった。需要が減ったから路線を減らしたというより、走らせる人がいないから減らさざるをえない路線が混じり始めている。その一方で、地域交通課の資料は、宿泊施設の利用客を複数の宿で共同送迎する群馬県みなかみ町や、複数施設の共同送迎を実証した岡山県玉野市、スクールバスへの住民の混乗を実証した京都府京田辺市などの例を挙げる。運転手も車両も、地域の中に散らばって存在しているのである。
つまり、問題は移動の需要そのものではなく、需要と輸送の資源が事業者ごと、施設ごとに分断されていることにある。バス会社の赤字は、その分断の一番目立つ部分にすぎないのではないか。
路線の維持から、輸送の束ねへ何が変わるのか
政策は束ねる方向へ動いている。国土交通省は令和7年度から9年度を集中対策期間とし、3か年で共同化100件という目標を掲げた。令和8年度の共同化・協業化促進の補助は1,000万円まで定額、それを超える分は3分の2で上限1.2億円である。法律案の概要には、自治体が運送主体を選定し協力者をあっせんする再構築事業の新設と、施設の送迎を担う事業者への協力の努力義務が盛り込まれた。バス会社同士の共同経営は独占禁止法の特例の対象となり、認可された計画は令和8年3月までに10件を数える。
ここで担い手の問題が浮かぶ。法律案の概要によれば、人口5万人未満の自治体の84%には交通の専任担当者がいない。町が設計を担えないのであれば、複数の施設と事業者の間に立って運行を組む役割は民間の側に回ってくる。全国展開の大手にとって一町の送迎網は小さく、個人のタクシー事業者には重い。地域に車両と運行管理の基盤を持つ交通事業者、あるいは送迎を抱える介護や宿泊の企業が、運ぶことを束ねる事業へ踏み出す余地はここにある。官民連携の場の会員は令和6年11月の発足時の167から令和7年12月末の1,365へ増えた。
単年度の支援で、何年の車両を買うのか
この事業の資金繰りを難しくするのは、収入と支出の時間の不一致である。運賃は小さく日銭で入り、施設や自治体からの負担金は契約や年度の区切りに左右される。ところが車両、運行管理の仕組み、運転者の採用と養成は先に資金が出ていく。補助は年度ごとの公募であり、次の年度も同じ額が出る保証はない。交通空白解消の補助では車両購入費は定額補助の対象から外れ、自ら保有する車両を使えない場合に限るとされる。
だから資金の組み方は、資産を持つか否かの判断から始まる。契約の見通しが短いうちは車両をリースで受け、固定費を契約期間の内側に収める。複数年の協定が取れるなら、長期の借入で自社保有とする選択肢が開ける。金利が上がる局面では、運賃の改定にも負担金の見直しにも時間がかかるため、変動金利の上昇を吸収する余地は小さく、固定の比率を高める理由が他の業種より強い。国土交通省の資料は財政投融資による共同化やデジタル化、脱炭素の投資への出融資にも触れており、こうした公的な枠が使えるかどうかも、資本の薄い交通事業者には検討の価値がある。
買収や統合で束ねる場合は、なお慎重さが要る。赤字路線を抱える会社を引き受けるなら、自治体の負担金の継続性と車両の更新時期を、価格より先に確かめねばならない。既存事業のキャッシュフローでどこまで支えるのか、その上限を先に決めておくことが、補助の変動に耐える条件となる。
夕方の道を走る車は、何台で足りるのか
町の夕方の道には、今日も空のバスと送迎車が並んで走っている。これを衰退の風景と見れば、残るのは撤退の順番だけである。だが、同じ光景を未使用の輸送力の一覧として見れば、問いが変わる。この何台かを一つの運行表に載せるとき、その資金は誰の貸借対照表に載るのか。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。