成長市場

防衛需要は売上の4%。撤退が続いた市場に資金は戻るのか

防衛事業は儲からず、撤退が相次ぐ分野と語られてきた。その市場で計画額は2倍を超えた。発注が増えるだけで、供給網の企業の資金繰りは楽になるのか。

ドリサポ編集部読了 約5分

航空祭の空を戦闘機が横切るとき、観客が見上げるのは完成した一機である。だが、その機体を成り立たせる部品を納める企業は、戦闘機だけで約1,100社にのぼると言われる。参議院の調査室がまとめた2023年の論文は、戦車で約1,300社、護衛艦で約8,300社という数字も紹介している。その多くは、観客の誰も名前を知らない会社である。

防衛の仕事については、割に合わないという見方が定着してきた。需要は国に限られ、数量は少なく、利益も薄い。同じ論文によれば、防衛装備品を生産する企業全体の防需依存度は約4%にとどまり、産業界の調査では営業利益率の実態は2〜3%とされた。2012年の研究会報告は、2003年以降に撤退表明や生産辞退、自主廃業などで102社が抜けたと数えている。賢明な企業ほど離れていく、というのが素直な読み方であろう。

その読み方は、もう古いのかもしれない。

計画額の増加は、誰の利益になるのか

経済産業省と防衛省が2026年2月に示した資料によれば、令和8年度の防衛予算は歳出額で過去最高の8兆8,093億円である。契約ベースの物件費は、前計画の17.2兆円程度から、令和5年度から9年度の今計画では43.5兆円程度へ増えた。なかでも維持整備費は約4兆円から約9兆円へ広がっており、調達して終わりではない需要が積み上がっている。

利益の算定も動いた。2023年度からの算定では利益率5〜10%、コスト変動調整率1〜5%を付与する形となり、防衛省は最終的な営業利益で7〜9%程度を目標に据えたと、先の論文は記す。かくして、4%という依存度と薄い利益という通説の両輪のうち、片方には手が入ったことになる。

だが、もう一方の輪はそのままである。契約の主体となる大手にとって防衛はなお一部門にすぎず、プライム企業の依存度はおおむね10%未満とされる。これに対して同じ論文は、小規模企業には依存度が50%を超える例もあると指摘する。つまり、計画額の増加がもたらす重みは供給網の階層によってまるで異なる。大手には小さく、小規模企業には一本足の危うさがある。その中間で、民需を主軸に持ちながら防需を一部引き受けられる企業の位置が、ここで意味を持ち始める。

なぜ増産の投資は国に払ってもらえないのか

防衛生産基盤強化法は、この層にも手を伸ばしている。防衛装備庁の案内によれば、2023年10月に施行された制度は、プライム企業でなくても認定を受けられ、供給網の強靱化、製造工程の効率化、サイバーセキュリティ強化、事業承継等の4類型について国が経費を直接支払う。2025年3月末までの認定は計157件、約332億円で、そのうち88件は中小企業ほかである。

この数字を見て、投資の財源が確保できたと考えるのは早計である。単なる老朽化の更新や増産のみを目的とする設備は対象外とされ、利益相当額も経費に含められない。民需と共用する設備では防需の割合に応じた分しか支払われず、購入費1億円で防需60%なら6,000万円である。支払いの時期も、部品がプライム企業の装備品に組み込まれ、防衛省へ納入されたと確認された後となる。前金払は予算の範囲内で可能だが、認定時に相談が要り、後からの切り替えはできない。

なお悪いことに、共用設備には完了後5年間の使用実績の報告が求められ、結果次第で一部の返納もありうる。計画額が増えるという話と、資金が先に入るという話は別なのである。

長い納入までの間、誰が資金を寝かせるのか

問題の所在は、受注の量より時間差にある。装備品の部品は、設備を入れてから納入の確認までが長くなりやすく、その間の設備資金と仕掛品の負担は下請けの貸借対照表に積み上がる。依存度が低いうちは既存事業のキャッシュフローで吸収できるが、防需を広げるほどその余力が試される。

だから資金設計は、案件の利益率ではなく回収までの期間から組み立てることになる。設備は回収の長さに合わせた長期の借入かリースで受け、仕掛品は短期の枠と分けて管理する。金利が上がる局面では、固定で長く借りれば負担は読めるが足元の水準は高く、変動なら軽く始められる代わりに納入遅延と金利上昇が重なる場面を自ら抱える。前金払の相談を認定前に済ませるかどうかで、必要な運転資金の山の高さも変わる。論文によれば、法第26条には日本政策金融公庫の資金貸付への配慮が規定され、2023年10月には装備品製造等基盤強化資金も創設された。こうした公的な枠も、自社の返済余力の試算を置き換えるものではない。

依存度をどこで止めるかも、財務の問いである。計画は令和9年度で区切りを迎え、その先の水準を前提に借入の年限を決めることはできない。防需が縮んでも民需の収益で返済が回る上限を、先に線として引く必要がある。

同じ機体が、違って見える日は来るのか

航空祭の空を飛ぶ機体は、これまでと同じ形をしている。だが、その背後の約1,100社を見る目は、撤退の歴史だけでは足りなくなった。4%という数字は、儲からなさの証拠であると同時に、民需という支えを持ったまま関われる余白の大きさでもある。支払いが届くまでの年月を、どの企業の、どの資金が引き受けるのか。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。

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