会社の総財産を担保とする企業価値担保権制度と、中小企業になじみの深い信用保証付融資は、原則として併用が可能とされている。ただし併用にあたっては、金融機関と信用保証協会の間で一定の調整手続きが必要になる。

企業価値担保権制度とは何か

企業価値担保権は、事業性融資の推進等に関する法律(令和六年法律第五十二号)に基づき創設された担保制度である。金融庁・中小企業庁が2026年5月に公表した資料によれば、2026年5月25日の施行が予定されていた(2026年8月時点)。

この担保権は、不動産などの個別資産ではなく「会社の総財産」を担保目的財産とする点が特徴で、商業登記簿への登記により対抗要件を備える。制度の目的は、不動産担保や経営者による個人保証に依存してきた従来の融資慣行を是正し、有形資産の乏しい企業や、個人保証を理由に事業承継・事業展開に踏み切れずにいる企業の資金調達を円滑にすることにある。

担保権者(金融機関)には制度概要等の説明義務が課され、借り手が事業計画等の前提を超える財産処分(事業譲渡など)を行う際は、担保権者との事前の同意が必要とされる。極度額(融資枠の上限)の設定は任意で、借り手からの請求があれば設定される仕組みになっている。

信用保証付融資との併用は可能か

結論として、企業価値担保権と信用保証付融資は同一の事業者において併用できる。両制度はいずれも中小企業の資金調達円滑化を目的としており、金融庁・中小企業庁の資料でも「各制度の適切な利用が求められる」とされている。

ただし、信用保証制度を利用する場合であっても、企業価値担保権の制度趣旨(不動産担保や個人保証等に依存した融資慣行の是正)に沿った運用が求められる点には注意が必要である。単純にすべての債権を企業価値担保権の対象に含めてよいわけではない。

併用時に金融機関へ求められる対応

事業性融資推進法12条1項3号は、一定の求償権を生じさせる信用保証付き債権について、金融機関が代位弁済請求等の権利を行使できないと定めている。代位弁済とは、信用保証協会が金融機関に対し、保証した債務を肩代わりして弁済することをいう。

権利行使ができないケースとして、資料では以下が挙げられている。

  • 信用保証協会の求償権に係る債務について、経営者等の個人が保証人となっている場合
  • 信用保証協会の求償権に係る債務を担保するため、個人所有の不動産(生活の本拠)等に担保権が設定されている場合
  • 特定被担保債権に係る債務について、個人が保証している場合(この場合、金融機関には個人保証の解除が求められる)

これらに該当する信用保証付き債権は、企業価値担保権の特定被担保債権(担保の対象となる債権)の範囲から除く対応が求められる。信用保証協会との相談の結果、個人保証等の解除で了解が得られれば、範囲から除かずに対応することも可能とされているが、解除の可否は各信用保証協会が諸般の事情を考慮して個別に判断するため、必ず解除に応じてもらえるとは限らない。

また、無担保が前提とされている信用保証についても、企業価値担保権の特定被担保債権から除く対応が求められる。

被担保債権の範囲から除く場合、信託契約書に保証番号を明記して除外する記載を行う必要があり、新たに保証付き融資を行うたびに信託契約の変更手続きが必要になる。

代位弁済請求・保証申込み時の実務対応

企業価値担保権を設定した事業者について代位弁済を請求する場合、金融機関は信用保証協会へ最新の「信託契約書の写し」を提出する必要がある。また、特定被担保債権に含まれる信用保証付き債権に係る代位弁済請求は、原則として企業価値担保権の実行手続終了後に行うものとされている。

既に企業価値担保権を設定している事業者が新たに信用保証を利用する場合は、金融機関から信用保証協会へ「将来性展望シート」の提出が必要になる(無担保利用の場合を含む)。このシートには、事業の強み・弱みや財務状況といった足元の経営状況・将来見通しに加え、信用保証協会による保証が必要な理由・経緯を記載する。資料では「保全強化のため」といった抽象的な記載では不十分とされ、リスク・懸念事項を具体的に示すことが求められている。

さらに、法施行後(2026年5月25日予定、2026年8月時点)は、株式会社・有限会社・持分会社が信用保証協会を利用する場合、企業価値担保権を設定していないケースも含め、代位弁済請求時に最新の商業登記簿謄本(登記事項証明書)の提出が金融機関に求められる。個人事業主等はこの対象に含まれない。

手続きの流れと相談窓口

資料では、企業価値担保権を利用しようとする局面ごとに判断フローが示されている。おおまかな流れは次のとおりである。

  1. 既存の信用保証付き融資がある状態で企業価値担保権を利用する場合、金融機関は信用保証協会へ事前に報告・相談を行う
  2. 無担保前提の保証付き債権は、特定被担保債権の範囲から除く
  3. 個人保証・個人所有不動産担保が付された保証付き債権は、解除の可否を信用保証協会に確認したうえで、除外または解除のいずれかで対応する
  4. 逆に企業価値担保権の設定後に信用保証を申し込む場合は、将来性展望シートを添えて信用保証協会に相談する

具体的な相談窓口は、取引金融機関および各都道府県の信用保証協会となる。資料に掲載された想定ケースでは、既存の無担保融資(プロパー融資50百万円、信用保証協会付融資80百万円)を抱える製造業者が新規設備投資で200百万円の借入を必要とした際、追加分のうち大部分をプロパー融資(企業価値担保権の対象)とし、一部を信用保証協会付融資(企業価値担保権の被担保債権からは除外)として対応した例が示されている。どのような配分にするかは、事業者の財務状況やリスクの所在をふまえた金融機関との個別協議による。

実務上のポイント

企業価値担保権と信用保証付融資の併用自体は可能だが、経営者の個人保証や無担保前提の信用保証が絡む債権は、企業価値担保権の対象から機械的に除かれる設計になっている点を押さえておきたい。融資検討の初期段階で、既存の信用保証付き融資に個人保証や不動産担保が付いているかを確認し、金融機関・信用保証協会との調整にどの程度の時間がかかりそうか見込んでおくと、資金調達のスケジュールが立てやすい。将来性展望シートの提出を求められる場合は、リスクや懸念事項も含めて具体的な事業状況を開示する準備をしておくとよい。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。