国道沿いに建つ新しい倉庫や店舗の工事現場を見ると、立ち上がっているのはたいてい鉄骨である。その近くの住宅地では、見慣れた木造の家が組まれている。一方で、山あいの町を走ると、看板の色あせた小さな製材所が閉じたままになっていることがある。
こうした光景を並べると、木材産業の未来は暗く見える。人口が減れば住宅が減り、住宅が減れば木材の需要も減る。小さな製材所が消えていくのは、その避けがたい帰結である、という見方である。
ところが、消えたのは工場であって、国産材ではない。
工場が減れば、木の仕事も減るのか
通説に沿う数字はある。林野庁の「木材産業の現状」(令和7年3月)によれば、2024年の新設住宅着工戸数は79万戸で前年比3%減、そのうち木造は45万戸である。製材工場の数は2004年の9,420から2023年には3,749へ、約6割減った。令和7年度森林・林業白書によれば、2024年の木材自給率は42.5%で前年より0.4ポイント下がっている。
しかし同じ資料の別の欄を読むと、話が変わる。製材工場が消費した国産材の量は、同じ期間に1,147万立方メートルから1,227万立方メートルへ増えた。工場が6割減ったのに、挽かれる国産材は減っていない。年間の国産材消費量が5万立方メートルを超える工場は13から38へ増え、これらが占める割合は7%から35%へ広がった。1万立方メートル未満の工場は9,213から3,521へ減り、消費量は692万立方メートルから384万立方メートルへ縮んだ。
起きていたのは縮小というより、担い手の入れ替わりである。小さな工場が大量に退出し、その分の木材が規模の大きな工場へ移った。その間に挟まれた年間1万〜5万立方メートルの層は、194工場から190工場へとほとんど数が変わらず、消費量は370万立方メートルから411万立方メートルへ増え、規模別で最大の塊になっている。中堅という言葉が最も当てはまるのは、おそらくこの層である。
なぜ鉄骨の倉庫は木にならないのか
次の問題は需要の側にある。住宅の木造率が高いことは知られているが、住宅が減る以上、そこだけでは先細る。令和6年度森林・林業白書によれば、2024年の着工建築物全体の木造率は47.2%であるのに対し、低層の非住宅建築物では15%程度、4階建て以上の中高層建築物では1%以下にとどまる。低層住宅以外を合わせても6.2%である。この低さは、伸びしろと読むこともできる。国道沿いの鉄骨の倉庫が、そのまま裏づけである。
法制度は、この領域へ木を入れる障壁を下げてきた。2023年4月には1.5時間と2.5時間の耐火性能基準が設定され、2024年4月には3,000平方メートル超の大規模木造でも燃えしろ設計が可能になった。都市(まち)の木造化推進法に基づく建築物木材利用促進協定は、2024年12月末時点で国が25件、地方公共団体が146件結ばれている。
にもかかわらず、需要はそう簡単には木に向かわない。非住宅の設計者が木を選ぶには、強度と品質が数字で保証された材が、決まった量、決まった時期に届く必要がある。林野庁の同資料によれば、2023年末時点で製材のJAS認証を取得している工場は3,749のうち331にとどまり、構造用製材のJAS格付率は27%である。建築用材に占める乾燥材の割合は2022年時点で58%である。住宅向けに地場の工務店へ納めてきた取引なら通用した品質の説明が、非住宅の大きな建物では通用しない。CLT(直交集成板)の例はこの難しさを別の形で示す。全国11工場で約10万立方メートルの生産体制がありながら、2023年の供給量は約1.8万立方メートルである。
つまり問題は、木が足りないことでも、建物の需要がないことでもない。設計者と発注者が計算に使える品質と納期を、誰が安定して供給できるかにある。木材の市場の競争軸は、丸太を挽く量から、性能を保証して届ける能力へと移りつつある。全国規模の大型工場が対応しにくい地域の小ロットの建物と、小規模の製材所には手の届かない認証と乾燥設備。1万〜5万立方メートル層の中堅企業が立つ場所は、この間にある。
乾燥機と在庫の資金を、誰が負うのか
性能を保証して届けるという転換は、資金の使い方を変える。必要なのは乾燥機や製材機械、検査の体制といった設備だけではない。乾燥に時間をかければその分だけ原木代と加工費は先に出ていき、納期どおりに届けようとすれば製品の在庫も持つことになる。大型の建物の案件は単発で大きく、受注の山谷も住宅より激しい。設備の返済と在庫の資金が同時に膨らむ構造である。
公的な枠組みは、設備と運転資金の双方にある。林野庁の令和8年度予算概算決定では、製材機械や木材乾燥機などの木材加工流通施設等の整備に補助率2分の1以内の支援が示され、JAS構造材・CLT等による木造化総合対策事業には約11.3億円が計上された。運転資金には、JAS製品などの高度加工費用を対象に含む木材産業等高度化推進資金があり、利率の上限は木材高度加工資金で短期2.15%、長期2.30%とされている。ただし利用には計画の作成と都道府県知事の認定が必要で、取扱いの有無や条件は都道府県によって異なる。施設整備の補助も、地域材の利用量の増加率などを要件としている。
資金設計で問われるのは、こうした制度を組み合わせる順序と、需要の見通しの置き方である。設備は回収期間に合わせた長期借入を軸にしつつ、補助金が入るまでのつなぎの資金を別に手当てする。乾燥材の在庫には短期の資金を当てるが、金利が上がる局面では在庫の回転が鈍った時の負担が一気に増える。非住宅の受注が想定の半分にとどまった場合でも、住宅向けの既存の仕事で返済を支えられるかを先に確かめておきたい。原木の調達も同じ問題をはらむ。素材生産者との安定供給の協定は補助の要件の一つでもあるが、引取りの約束は同時に在庫の負担にもなる。
鉄骨の現場は、いつまで鉄骨のままか
国道沿いの倉庫は、当面は鉄骨のまま建ち続けるだろう。山あいの小さな製材所の看板も、元には戻らない。だがこの二つの光景の間で、国産材を挽く量は増え、それを担う工場の顔ぶれは入れ替わってきた。
次にこの国道に木造の倉庫が建つ時、その梁は誰の工場から来るのか。乾燥機と在庫に寝かせる資金を、自社はどの程度の年数で回収すると言えるのか。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。