成長市場

養殖は縮小産業か。餌代7割の事業に問われる資金の組み方

国内の養殖業は生産量の長期減少から、縮む産業として語られることが多い。だが輸出額と経営体あたりの生産性は別の方向を指す。魚を育てる事業の難所は、本当に海や需要の側にあるのか。

ドリサポ編集部読了 約5分

スーパーの鮮魚売り場で、ブリの切り身のラベルに「養殖」の二文字を見ることは、もはや珍しくない。令和7年度水産白書によれば、ブリでは近年、養殖魚が平均的に天然魚より高い値で取引されている。それでも、養殖という産業そのものの話になると、語られる調子は急に暗くなる。

海の環境が変わり、担い手が減り、生産量は下がり続けている。漁業と同じく養殖もまた、静かに縮んでいく産業のひとつだ、という見方である。新規に参入するなら話題の陸上養殖だけが例外だ、という声がこれに続く。

だが、この見方は数字の半分しか見ていない。

生産量の減少は、産業の衰退を意味するのか

通説を支える数字はたしかにある。令和7年度水産白書によれば、2024年の国内の養殖業生産量は内水面を含めて約83万トンで、1988年の約143万トンをピークに減少傾向が続く。世界では養殖の生産量が約1億4,164万トンに達し、漁業と養殖を合わせた生産量の約6割を占めるから、国内の姿は世界の潮流に逆行しているようにも映る。

にもかかわらず、同じ白書は別の動きも記す。2025年の水産物の輸出額は4,231億円で、前年比17.2%増と過去最高を更新し、品目別ではホタテガイに次いでブリが2位に入る。ブリ類とマダイの養殖では経営体数が減る一方で、1経営体あたりの生産額と生産量は増加傾向にある。つまり、量が減っている間に、担い手の数が絞られ、一つの経営が抱える規模は大きくなってきた。水産庁の養殖業成長産業化総合戦略は、2030年にブリ類の生産量を24万トン、輸出額を1,600億円とする目標を掲げている。基準とする2018年の14万トン、160億円から見れば、政策が前提とする市場の姿は「縮小」ではない。

では、注目を集める陸上養殖はどうか。白書によれば届出件数は2026年1月1日時点で808件にのぼり、水産庁の集計では2024年1月時点の662件、2025年1月時点の740件から増え続けている。ところが2024年度の生産量は約7千トンで、国内養殖の0.8%程度にとどまる。件数の勢いと生産量の小ささの間には、大きな開きがある。水産庁の資料も、閉鎖循環式は初期投資と電気代の負担が大きく、一層のコスト低減が必要だとしている。

本当の制約は海なのか

養殖の経営を一度、決算書の側から眺めてみる。白書によれば、魚類養殖業では餌代がコストの約7割を占める。飼料の価格動向が経営を大きく左右するという記述は、生物の話というより、原材料を買い続ける製造業の話に近い。

ただし、製造業と決定的に違う点がある。工場なら原材料は短い期間で製品に変わるが、魚は育つまで売れない。餌代を毎日のように払い続け、代金が入るのは出荷の時である。かくして魚が大きくなるほど、生け簀の中に寝かせた資金も膨らむ。不漁の年に船を出さない判断はできても、生きている魚への給餌を止める判断はできない。

つまり養殖は、海の産業である以前に、餌と時間を前払いする事業である。問題は生産量の減少ではなく、この前払いに耐えられる財務を持つ経営がどれだけあるかにある。経営体が減り、一社あたりの規模が大きくなってきた流れも、この観点からは別の読み方ができる。小さな経営にとって、飼料の高騰と出荷の遅れが同時に来る局面は致命傷になりうる。規模と資金の厚みを持つ側に、生産が寄っていくのは不思議ではない。

ここに、水産加工や流通、飼料、あるいは地域で別の事業を営む中堅企業の居場所がある。個人経営には重く、大手が一社で全国を押さえるには分散した産地の仕事である。出荷先を持つ側が生産に関わるなら、育てる前に売り先の見通しを立てられる。水産庁が「マーケット・イン型養殖業」として示す事業の型も、需要の情報に合わせて作る方向への転換を求めるものである。

魚を育てる資金は、何年の借入で支えるのか

資金設計を考えるとき、設備と餌を同じ財布で扱うことが最初のつまずきになる。生け簀や陸上の施設は長く使う資産であり、長期の借入やリースになじむ。一方、餌代は出荷で回収される運転資金であり、回収の時期は魚種と出荷計画で決まる。短期の借入を更新しながら餌代をつないでいる間に、出荷の遅れや金利上昇が重なれば、利益が出ていても資金は先に枯れる。出荷が半年遅れた場合の資金残高を、魚種ごとに試算しておくことが欠かせない。

金融機関の側にも、生け簀の中の魚の価値は見えにくいという難しさがある。水産庁は2020年から2022年にかけて、魚類、貝類、藻類、陸上養殖などの事業性を評価するための指針を順次整えてきた。担保ではなく計画と実績で説明する材料は、以前より揃いつつある。

公的な支援も、資金の山を削る手段にはなる。令和7年度の水産関係補正予算には、配合飼料の価格上昇時に補塡する漁業経営セーフティーネット構築事業の232億円、人工種苗施設の強化や共同購入を支える養殖業体質強化緊急総合対策事業の16億円、陸上養殖や大規模沖合養殖の実証を支援する「もうかる漁業」の65億円などが並ぶ。ただ、補塡には養殖業者の側の負担もあり、補助の多くは投資の一部を埋めるにとどまる。自己資金と借入の厚みをどう置くかという問いは、最後まで経営の側に残る。陸上養殖に向かう場合はなおさらで、高い初期投資に電気代の変動が重なるなら、既存事業のキャッシュフローで何年支えられるのかを、施設の規模より先に決める必要がある。

売り場のラベルの裏に、誰の資金があるのか

鮮魚売り場の「養殖」の二文字は、海で魚が育ったという事実だけを伝えているわけではない。その切り身が棚に並ぶまでの間、誰かが餌代を払い続け、値動きと出荷の遅れの危険を引き受けてきたことも示している。

生産量のグラフだけを見れば、縮む産業に映るのだろう。だが同じ棚を、前払いを引き受ける側の目で見るとどうなるか。生け簀に寝かせられる資金の額と期間を、自社はどこまで答えられるのか。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。

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