駅前の不動産店の窓に、物件の紙が並んでいる。新築の分譲よりも、「内外装リフォーム済み」と書かれた築年数の古い戸建ての紙が目につくようになった。その同じ町の裏通りには、雨戸を閉めたままの家がある。
住宅産業の先行きを語るとき、この裏通りの家は決まって悪い知らせとして扱われる。人口が減り、新築が売れなくなり、空き家が増える。住宅は余っており、住宅に関わる事業の多くは縮むほかない、という見立てである。
ところが、余っているのは家であって、仕事ではない。
新築の減少は、住宅市場の縮小なのか
数字だけを追えば、通説は裏づけられるように見える。令和5年住宅・土地統計調査によれば、空き家は900万2千戸で過去最多、空き家率は13.8%で過去最高である。賃貸・売却用と二次的住宅を除いた空き家も385万6千戸と、5年で36万9千戸増えた。国土交通省の資料では、2023年の新設住宅着工戸数は82万戸である。
同じ資料は、しかし別の比率も示す。着工戸数とストック数の比は、1973年の約15分の1から1998年の約40分の1、2023年には約70分の1へと変わった。年間に足される住宅より、すでにある住宅の量がはるかに重くなったということである。既存住宅の流通シェアは2013年の30.8%から2023年には40.4%へ上がり、戸建てに限っても22.4%から30.5%へ上がった。リフォーム市場の規模は2022年に、狭義で約6.9兆円、広義で約8.1兆円と推計されている。
問題の所在は、供給量ではなさそうである。すでにある住宅のうち、1980年以前に建てられて耐震性が不足するものは約700万戸と推計される。空き家が増える一方で、買い手が安心して買える状態の家は、それと同じだけあるわけではない。
なぜ「安く買える家」が流通しないのか
個人が古い家を買う場面を想像すると、この市場の難所が見えてくる。性能が分からず、直す費用も読めず、工事を誰に頼むのかも自分で決めなければならない。価格が安くても、不確かさが取引を止める。
ここに入り込んだのが、事業者が自ら仕入れて改修し、売り直す買取再販である。国土交通省の資料が引くランキングによれば、2023年度の販売戸数は上位50社で2万6,834戸、上位20社で2万2,495戸にのぼる。首位のカチタスは5,535戸で、上位50社の販売戸数はこの10年で増加傾向にある。上位20社で全体の8割強を占める計算であり、21位から50位の30社を合わせても4,339戸にとどまる。かくして全国展開の大手と地場の小規模事業者の間に、空白が広がっている。
2026年3月27日付の住生活基本計画(全国計画)は、買取再販による既存住宅の良質化とその更なる普及を施策に掲げ、相続される住宅の流通活性化も挙げる。税制でも、令和8年度改正の概要で、買取再販住宅の住宅ローン減税は新築住宅と同等の支援水準とされ、リフォームの借入限度額・控除期間は2,000万円、10年と整理された。買い手の側の負担が新築に近づくなら、古い家は「仕方なく買うもの」から、選択肢の一つへと位置を変える余地がある。
つまり競争の軸は仲介の手数料でも、工事の請負単価でもない。不確かな家の品質を見極め、直し、保証して、売れる形に変えるまでのリスクを誰が持つのか、という点に移っている。これは工事業でも不動産仲介でもなく、在庫を持つ事業である。地域の工務店や建材流通、不動産会社など、地場の情報と施工の手を持つ中堅企業に余地があるとすれば、まさにここである。
在庫を持つ事業は、何で資金が詰まるのか
在庫を持つとは、資金を寝かせることにほかならない。仕入れた時点で代金が出ていき、工事中にも費用が出ていき、収入は売れた時にしか入らない。1戸あたりの利幅がいかに魅力的に見えても、販売までの期間が延びれば、利息と固定資産税、そして次の仕入れに回せない機会の損失が積み上がる。決算の利益が出ていても、手元の現金が先に尽きるのは、この事業の典型的な崩れ方である。
だから資金設計の問いは、「いくら借りられるか」より「資金が何回転するか」になる。工事と販売の期間を実績で測り、物件ごとに返済する短期の借入を基本にしながら、その枠が埋まった時に仕入れを止める規律を先に決めておく必要がある。金利が上がる局面では、変動金利の短期資金を在庫に充てる構造そのものが、販売の遅れと金利上昇の両方から同時に打撃を受ける。売れ行きが3割落ち、在庫期間が延びた場合の資金残高を試算しておくことが、利益計画より先に要る。
資本の厚みも問題になる。物件を積み増すほど自己資本比率は下がり、金融機関が見る担保の価値は、改修途中の古い家では評価が難しい。既存事業の安定した収入を背負わせて借入の枠を確保するのか、別会社にして本体の財務から切り離すのか。後者は倒れた時の影響を限れるが、調達の条件は厳しくなりやすい。営業地域を絞って回転を速くするという、資金の面からの地域戦略も選択肢に入る。上位の大手と同じ戸数を追う必要は、はじめからない。
雨戸の閉まった家は、誰の負債なのか
駅前の窓に貼られた「リフォーム済み」の紙と、裏通りの雨戸を閉めた家は、同じ統計の別の面である。後者が前者に変わるまでの間に、誰かが資金と不確かさを引き受ける必要がある。
空き家を地域の負債と呼ぶのは、たしかに一つの見方である。ただ、不確かさを引き受ける側から眺めれば、同じ家は仕入れ候補の在庫に見える。その在庫を何か月で回せるのか。答えを持たないまま戸数を追う会社にとって、900万戸という数字は依然として重荷のままである。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。