成長市場

訪問介護は本当に儲からないのか。9.6%の平均が隠す人の制約

介護は志で支える利益の薄い事業だと語られる。ところが統計の訪問介護は高い収支差率を示し、担い手の7割超は会社である。問題が利益率でないとすれば、この市場で資金は何に使われるべきなのか。

ドリサポ編集部読了 約6分

夕方の住宅街を、小さな軽自動車が止まっては走り去る。車体には地域の事業所の名前があり、運転席の職員は次の家へと急いでいる。高齢者の家を一軒ずつ回るこの光景は、この国の多くの町でごく当たり前のものになった。

この仕事は、社会に必要だが利益の出ない事業だと思われがちである。公定価格で売上が縛られ、給与を上げたくても原資がない。だから事業者は疲弊し、外から資金を投じる先としては筋が悪い。そう考える経営者は少なくないはずである。

統計は、それとは違う姿を映している。

利益の出ない事業という見立ては、数字と合うのか

令和7年度介護事業経営概況調査によれば、訪問介護の税引前収支差率は、物価高騰対策関連の補助金を含めない場合で令和5年度11.1%、令和6年度9.6%である。通所介護も6.5%、6.2%と続く。これに対し介護老人福祉施設は1.3%、1.4%、介護老人保健施設は▲0.6%、0.6%にとどまる。同じ介護でも、在宅の事業と施設の事業の収支には大きな開きがある。

事業者の顔ぶれも通念とは異なる。令和6年介護サービス施設・事業所調査によれば、訪問介護は3万7,264事業所で前年より359増え、開設主体の73.2%は営利法人である。通所介護は2万4,585事業所で、55.0%が営利法人である。福祉の事業というより、すでに会社の事業に近い。

では、この市場は投資先として素直に魅力的なのか。そう読むのも早い。訪問介護の収支差率は1年で1.5ポイント下がり、給与費の割合は67.0%から67.8%へ上がった。平均が高いことと、これから先も稼げることとは別の話である。売上の7割近くが人の費用であるこの事業で、利益率を決めるのは価格より、人を確保して動かし続けられるかどうかではないか。

足りないのは報酬なのか、それとも人を束ねる器なのか

厚生労働省の資料によれば、介護職員数は2022年度に約215万人で、必要数は2026年度に約240万人、2040年度に約272万人と見込まれる。2040年までに年3.2万人ずつ積み増す計算である。省力化投資促進プランは2040年に20%以上の業務効率化を求めている。職員を増やすと同時に、職員1人当たりの仕事量も減らさなければ足りない。

2025年7月の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会のとりまとめは、この地域差を具体的に示す。在宅サービスの需要のピークは、町村部では約30%の保険者が2024年以前に迎えた一方、政令市や特別区、県庁所在地などの都市部では約80%の保険者が2040年以降に迎える見込みである。同じ「介護市場」という言葉の下に、すでに縮み始めた地域と、これから長く伸びる地域が同居している。

かくして問題は、個々の事業所の利益率から、事業の器の大きさに移る。厚生労働省は2026年1月のガイドラインで、いずれの地域でも法人や事業所が単独で経営を維持することが難しくなる恐れがあるとし、協働化と大規模化を人材確保と経営の持続性の基盤づくりと位置づけた。とりまとめは、中山間・人口減少地域では拠点の集約より間接業務の効率化が、大都市部では拠点の統合が有用だと整理する。同じ処方は使えない。

ここで見えてくるのは、「ケアの提供」と「ケアを支える経営機能」の分離である。採用、研修、請求、記録、勤務の組み立ては、1法人1拠点では割高になるが、束ねれば効く。ガイドラインが引くアンケートでは協働化の取組を実施している事業所は回答の約4割、大規模化の効果として年間売上高の増加を挙げた回答は58.8%であった。多拠点の管理に慣れた中堅企業の出番は、介護そのものより、むしろこの間接の領域にある。訪問介護の担い手の多くが会社である以上、事業譲渡や買収は現実の選択肢に入る。

統合の資金は、どこで詰まるのか

束ねる側の資金の問題は、固定費の増え方にある。ガイドラインは、新たな拠点を開く際には施設整備費や備品購入費に加えて賃借料や人件費といった固定費が増えるとし、大規模化後の収入で初期投資をどの期間で回収できるか、資金繰りに支障がないかを確かめ、一定の運転資金を確保するよう求めている。介護報酬は入金まで時間差があるため、拠点を増やすほど立て替える人件費も膨らむ。譲受の価格ばかりを見ていると、最初に苦しくなるのは運転資金である。

買収や事業譲渡では、ガイドラインが簿外負債を含む財務の十分な調査を、とりまとめが福祉事業の特質を踏まえた調査を求めている。特に職員の定着は、帳簿に載らない最大の資産であり、最大の不確実性でもある。職員が移籍しなければ、買った事業の売上は立たない。買収資金の返済計画を組むなら、離職が一定程度出た場合でも返済できるかを、平均の収支差率でなく対象事業所の実績で試算する必要がある。

補助の使い方にも順序がある。介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業は令和7年度補正予算で約220億円が措置され、ガイドラインによれば、協働化や大規模化の取組を対象とする事業の補助割合は対象経費の5分の4(上限あり)である。これは機器や間接業務の整備に向く資金であり、買収の対価を賄うものではない。社会福祉法人の合併については福祉医療機構の優遇融資や引き合わせの支援があるが、合併は社会福祉法人間に限られる。会社として拠点を束ねる場合は、自己資金と長期の借入を軸に、補助金を間接機能の立ち上げに当てるという役割分担が現実的になる。公定価格の事業である以上、改定による収入の変動も見込まねばならず、返済の期間は長めに取り、手元資金を厚くする組み方が合う。

夕方の軽自動車は、何を運んでいるのか

住宅街を走る軽自動車の光景は、数字を知った後もおそらく変わらない。一軒ずつ回るという仕事の形は、束ねても大きくは変えられない。

変えられるのは、車の後ろ側にある事務所の姿である。9.6%という平均は、余裕の証拠というより、人が確保できている事業所に残された数字と読むこともできる。その人を確保し続ける器に、誰が、どの期間の資金を投じるのか。同じ軽自動車が、市場の入口に見えてくるのは、その問いを立てた時である。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。

ドリサポ編集部白書・統計などの公開資料をもとに編集部が構成し、AIを用いて執筆しています。 編集方針