郊外の造成地に、窓の少ない大きな建物が立ち上がる。看板は小さく、人の出入りもまばらで、何を扱う施設なのか、前を通る者にはよく分からない。周囲には電気工事や空調の業者の車が並ぶが、竣工してしまえば、その車の姿も目立たなくなる。
こうした施設は、巨額の資金を動かせる大手や外資の領分だと思われがちである。土地と建物と計算機に巨額を投じる世界に、年商数十億円、数百億円の企業の出る幕はない。投資の主役という意味では、それは正しい見方だろう。
だが市場は、投資の主役だけで成り立ってはいない。
増えているのは計算需要だけなのか
令和8年版情報通信白書が引く推計によれば、日本のデータセンターサービスの市場規模は、2025年見込みの253億ドルから2030年には351億ドルへ広がる。世界では5,275億ドルから7,391億ドルである。この数字だけなら、成長市場を語る資料はいくらでもある。
電力の側の数字は、もう少し奇妙な形をしている。資源エネルギー庁の2025年1月の資料によれば、全国の最大需要電力は2024年度の1億5,760万kWから2034年度の1億6,459万kWへ、699万kW増える見通しである。一方、データセンターと半導体工場の新増設による増加は、同じ期間で715万kWとされる。つまり全体の増加分を新増設の分だけで上回る。ほかの需要は差し引きで減り、国内の電力需要の増加はこの二つの産業に寄りかかっている。
しかも立地は偏っている。白書によれば、データセンターのおよそ9割が東京圏と大阪圏に集中する。総務省と経済産業省のワット・ビット連携官民懇談会の資料は、関東が64%、関西が24%と示したうえで、電力インフラの制約から既存の集積地を離れた設置が起きていると記す。国は地方分散への支援を続け、令和6年度補正予算には120億円を計上した。かくして、これまで縁のなかった地域にも工事と保守の需要が現れる可能性がある。
本当に足りないのは、資金なのか
問題を「投資を呼び込めるか」と立てると、議論は誘致の話に流れる。だが現場で先に詰まるのは、おそらく別の場所である。
経済産業省が2026年2月に示した電気保安人材の資料によれば、電気工事士に関する調査で、人材が「大いに不足」とした回答は26.1%、「やや不足」は44.4%で、合わせて約7割にのぼる。年齢構成の中央は40代にある。15歳人口は令和11年に100万人を割り、令和20年には約74万人になる見込みとされ、資格者の入口そのものが細っていく。
逆向きの数字もある。電気主任技術者については、同じ資料で、令和5年9月時点では令和12年度に約500人不足すると予想されていたものが、令和7年3月末時点ではスマート保安の効果などから不足は生じないとの見込みへ改められた。人手不足は一律ではなく、技術で圧縮できる業務とできない業務に分かれる。現場で配線を引き、受電設備を据える工程は、圧縮の難しい側に残りやすい。
技術要件の変化もこれに重なる。官民懇談会の取りまとめ1.0は、2029年度以降の新設施設について稼働2年後の電力使用効率1.3以下とする案や、液冷と液浸の技術開発の促進を掲げる。冷却は建設時の一度限りの工事でなく、基準に沿って更新を重ねる領域になり得る。だとすれば、中堅企業が向き合う市場の本体は建物の所有ではない。電気と冷却と保守を、基準を満たして供給し続ける能力である。所有の市場と能力の市場を分けて考えることで、初めて参入の入口が見える。
需要の山が来た後、何が残るのか
ここで最初の見通しに、もう一度戻らねばならない。同じ資源エネルギー庁の資料は、新増設による最大需要の増加を2025年度56万kW、2029年度431万kW、2034年度715万kWと置きつつ、現時点の申込状況に基づけば2031年度を境に伸びが減少するとも注記している。将来の申込次第で変わるとはいえ、計画の前提として直線的な成長は置けない。
これは資金設計にとって厄介な事実である。工場の増設や技能者の採用は、受注の山が見える前に決めなければならず、借入の返済は山が過ぎた後も続く。設備の回収期間が10年であれば、2031年度より先の需要を前提に置くことになる。建設工事が一巡した後に保守や更新の収入がどれだけ残るのか、その見積もりが投資判断の中心に来る。工事の収入で元金を返し切る設計にするのか、保守の継続収入を返済原資に数えるのか。後者であれば、長期の固定金利と、受注の変動に耐える手元資金の厚みが要る。
公的支援の位置づけも同じ目で見ておきたい。中堅・中小向けの大規模成長投資補助金は、第5次公募の説明資料によれば、補助上限50億円、補助率3分の1以下で、投資額20億円以上を要件とする。従業員2,000人以下の会社等が対象で、最大10社の共同申請の枠もある。残る3分の2は自己資金と借入で組まねばならないし、補助事業終了後3年間にわたり1人当たり給与支給総額の年平均上昇率5.0%以上という要件は、受注の山が過ぎた後の固定費にも効いてくる。補助金が初期負担を軽くする分、賃金という形で後年度の負担が約束されるわけである。工事の繁閑を、賃金の下方硬直性と突き合わせる試算が欠かせない。
建物の前を通る業者の車は、何を意味するのか
竣工すれば目立たなくなる業者の車は、市場から退いたのではない。稼働する限り、電気と冷却はそこで動き続け、基準が改まれば手を入れる必要が生じる。
巨大な建物を所有できるかどうかは、中堅企業の問いではない。問いは、申込の山が過ぎた後も残る仕事に、今どれだけの資金を、何年の返済で張れるかである。造成地の前を通る時、同じ建物はその回収期間の長さを問うているように見える。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。