2026年1月13日、愛知県豊川市で耕作を担う新しい会社が設立された。中日新聞社と、生産から販売までを手がける新興企業の日本農業が合弁で立ち上げた、資本金1,000万円の農業法人である。社名は中日アグリ。休耕中の農業用ハウスを使ってイチゴを生産し、9月末に苗を定植して12月に出荷する計画を、両社は同年9月に公表した。
発端にあるのは放置されたハウスの増加という地域の課題であり、新聞社にとっては農業分野への参入にあたる。資本金の規模を見れば、大きな賭けとは言えない。設備を新しく建てるのでなく、すでにあって使われなくなった設備に作物を戻すという選択である。
なぜ農業とは縁の遠い会社が、畑の側に回るのか
地域貢献の一環と見れば、話はそこで終わる。農業は担い手の減る産業であり、企業が入るとしても本業の余力で支える社会的な活動だ、という見方である。この事例もその一つとして片づけることはできる。だが、一社の事情だけでは説明のつかない変化が、統計の側に現れている。答えを急がず、先に数字を見る。
「農家の減少」は市場の縮小を意味するのか
2025年農林業センサスの確定値によれば、個人経営体は79万6千経営体で、5年前より23.3%減った。基幹的農業従事者も103万6千人と24.0%減り、平均年齢は67.7歳、65歳以上が69.6%を占める。ここまでは通説の通りである。
ところが同じ調査で、法人経営体は3万4千経営体へ10.1%増え、なかでも会社法人は2万5千経営体へ23.0%増えている。20ha以上の経営体が占める経営耕地面積の割合は49.7%と、5年で5.4ポイント上がった。1経営体当たりの経営耕地面積は3.6haで、16.1%広がっている。農家の数が減るのと同じ速度で農業が消えているのではない。
農林水産省経営局の2026年10月の資料は、法人その他団体経営体が販売金額の約4割、経営耕地面積の約3割を担うと整理する。令和7年度食料・農業・農村白書によれば、30ha以上の経営体に占める法人の割合は2015年の5割から2025年には6割へ上がった。一般企業の参入を映すリース法人の経営体数も、2017年の3,030から2023年には4,121へ増えている。担い手への農地集積率は2024年度に61.5%に達した。
つまり起きているのは市場の縮小というより、経営の主体の入れ替わりである。同じ資料では、2026年時点で98.7万人の基幹的農業従事者のうち、20年後の中心となる50代以下は21.5万人にとどまる。かくして残る農地と設備は、数の少ない経営体に引き受けられていく。しかも引き受け手は、耕す技術だけでは足りない。人を雇い、複数の圃場や施設を動かし、販路を自ら持つ経営の力を問われる。農業の外で組織を動かしてきた中堅企業に出番が生まれるのは、この一点である。
大きくなった農業法人は、なぜ脆いのか
ただし、法人化と規模拡大がそのまま強さになるわけではない。白書は農業法人について、借入金への依存度が高く、売上高の減少に対する耐性が低いとして、経営基盤の脆さを指摘している。規模拡大や物流、加工、輸出の取組が進むにつれて農業分野の資金需要は広がっているにもかかわらず、その受け皿となる財務の厚みが追いついていないことになる。
資金の組み方はここで問題になる。農業の設備は回収までの時間が長く、天候や価格で初期の収入がぶれる。その投資を短い借入で賄えば、まだ収穫が安定しない時期に元金の返済が来る。農林水産省の資料が示すスーパーL資金は、償還期限25年以内、うち据置期間10年以内で、法人の貸付限度額は10億円、協調融資の状況に応じて30億円とされる。地域計画の目標地図に位置づけられた場合などには、当初5年間の金利負担を軽減する仕組みもある。こうした制度の眼目は金利の低さより、返済の期間を作物の時間に合わせられる点にあると見るべきである。
とはいえ、借入だけで規模を追えば、白書の指摘する脆さをそのまま引き受ける。だから自己資本をどこで厚くするかが同時に問われる。農水省の資料は出資や資本性ローンにも触れ、白書は農業法人の企業価値を評価する手法の枠組みづくりを進めるとする。民間の金融機関などから適切な出資や融資を促すためである。農林中央金庫法の改正案も、民間資金の活用促進を掲げて国会に提出された。農業法人を評価して資金を出す仕組みは、なお整備の途上にある。
異業種から入る中堅企業には、もう一つの注意がある。中堅・中小向けの大規模成長投資補助金は、第5次公募の説明資料で、農作物の生産自体など1次産業を主たる事業とする場合を対象外としている。本体の事業が生産に傾くのか、加工や流通に軸足を置くのかで、使える制度の組み合わせが変わる。子会社を置くのか合弁にするのかという器の設計も、本業のキャッシュフローから切り離せる額はいくらかという問いも、この区分と一緒に考えざるを得ない。
資本金1,000万円の会社は、何を買ったのか
豊川市のハウスに話を戻す。新築の設備投資でなく休耕中の設備から始めるという手順は、初期の資金を抑えながら、作物と販路の手応えを確かめる順序としても読める。もちろん、この小さな会社がどう育つのか、計画通りの収穫になるのかは、外からはまだ分からない。
確かなのは、担い手が減るほど、残された農地と設備には引き受け手が要るということである。その引き受けを社会貢献と呼ぶのか、長い回収期間を前提にした事業と呼ぶのか。呼び方の違いは、最初の借入の期間に、そのまま表れるのではないか。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。