成長市場

建設業は斜陽か。老朽インフラが生む年5兆円台の繰り返し需要

公共事業は縮小し、建設業は成長しない。そう言われる一方で、街では点検と補修の工事が絶えない。需要が消えたのか、形を変えたのか。その違いは中堅企業の資金の組み方をどう変えるのか。

ドリサポ編集部読了 約6分

朝の通勤で渡る橋の下で、点検車がゆっくり走っている。足元の道路を掘り返す工事の囲いも、いつの間にか見慣れた景色になった。新しい橋が架かる場面には出会わないのに、工事の気配だけは街から消えない。

公共事業は縮小を続け、建設業は成長しない斜陽産業だ。そう思われがちである。人口が減り、財政が苦しくなる以上、新しい道路も橋も要らなくなり、仕事が減るのは当然だという理屈だ。

だが、減っているのは仕事ではなく、仕事の形である。

縮小という数字は、どこにあるのか

2026年度の国の公共事業関係費(当初予算案)は約6.1兆円で、前年度から220億円増えた。建設経済研究所と経済調査会の「建設経済モデルによる建設投資の見通し」(2026年1月)が示す実態は、縮小ではなく高止まりの横ばいである。両機関は2026年度の建設投資を81兆700億円と推計し、1996年度以来30年ぶりに80兆円を超えるとも見込んだ(日本経済新聞、2026年2月10日)。民間研究機関の推計であり、国土交通省の公式見通しとは別の数字だが、斜陽という言葉とは噛み合わない。

では需要が膨らみ続けているのかといえば、そうでもない。新しい施設が増えて仕事が増えるという、かつての成長の型は確かに薄れている。にもかかわらず工事が絶えないのは、すでにあるものが傷み始めているからである。

国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」によれば、建設後50年以上の道路橋(約73万橋)は、2023年3月の約37%から2030年3月に約54%、2040年3月には約75%へ達する。水道管路は約9%から約21%、約41%へ、下水道管渠は約7%から約16%、約34%へと進む。建設年度不明の施設を除いた値で、50年は便宜的な区切りにすぎない。それでも、老朽化が一斉に進むという構図は動かない。新設は計画によって止められるが、劣化は止められない。

市場は大きいのに、なぜ膨らまないのか

国土交通省所管12分野の将来推計(2018年11月公表)によれば、事後保全で対応した場合、1年当たりの維持管理・更新費は2048年度に2018年度の約2.4倍になる。予防保全なら2048年度の費用は事後保全より約5割少なく、30年間の累計でも約3割少ない。累計は事後保全が約280兆円、予防保全が約190兆円である。予防保全を選んだ場合の年間費用は、2018年度の約5.2兆円から2048年度の約6.5兆円へ、緩やかに増える。

この数字は、爆発的な成長を約束していない。年5兆円台から6兆円台の需要が、長く続く。予防保全とは需要をつくる思想ではなく、総額を抑える思想なのである。令和8年度の国交省予算で「予防保全型のインフラメンテナンスの実現」は8,673億円(前年度比1.04倍)、令和7年度補正予算の1,724億円を加えても10,398億円(同1.24倍)にとどまる(令和8年度予算概要)。予算は付く。ただし、付き方は穏やかである。

かくして、問いは「需要があるか」から「その需要がどんな形で発注されるか」へ移る。受注側の収益は市場の大きさではなく、発注方式と契約の設計に左右されるからだ。

しかも発注側には、さばく力が足りない。令和7年4月1日時点の地方公共団体定員管理調査に基づく国交省資料では、市区町村の技術系職員(土木技師・建築技師)が0人の団体が435団体(25%)、5人以下が約5割である。修繕等が必要な約37,000橋は措置が未完了で、これまでの予算水準では予防保全への移行まで約20年を要する(2024年度末時点)。需要はあるのに、自治体の予算ペースが受注の上限になる。国交省の「地域インフラ群再生戦略」関連資料が、包括的民間委託の導入支援や資格制度、研修による人材育成を挙げ、背景に技術系職員の減少と土木費の減少を置いているのも、この制約の裏返しである。

成長を前提にした借入は、何を支えるのか

斜陽か成長かという二択を捨てると、見えてくるのは「量の成長」ではなく「契約の継続」で稼ぐ市場である。新設は一件ごとに受注を競う。維持管理は、複数年の包括委託のように、一度つかめば仕事が繰り返される。ただし、その入口では固定費が先に立つ。技術者を抱え込む人件費は、契約が始まる前から発生するからである。

受注量の増加を前提に借入を組めば、自治体の発注の遅れや平準化の影響をそのまま受ける。返済計画の前提に置くべきは、見込みの受注額ではなく、契約期間、最低業務量、支払条件である。人件費の固定費化と契約期間が噛み合っているか。借入の期間構成は、その契約の残存期間を超えていないか。金利上昇局面で固定と変動のどちらを選ぶかも、収入が契約で固定されている度合いに照らして決まる。なお、出来高払いや年度末精算といった自治体の支払い実務は今回の材料では確認できておらず、契約約款での確認を要する。運転資金の厚みは、そこで変わる。

設備投資にも、性格の違いがある。点検用の計測機器のような小口の投資と、大型の施工機械では、回収の読み方も資金の出どころも異なる。省力化等の大規模成長投資補助金(第5次公募、令和8年2月27日時点)は、補助上限50億円、補助率1/3以下で、投資額20億円以上(100億宣言企業は15億円以上)、補助事業終了後3年間の1人当たり給与支給総額の年平均上昇率5.0%以上(同4.5%以上)が要件である。年商数十億円規模の中堅には、届きにくい水準かもしれない。他の制度は今回確認できていないため、設備ごとに使える制度を分けて探る必要がある。

技術者の承継を兼ねた同業のM&A(合併・買収)では、事業承継・M&A補助金が専門家費用の一部に使える。補助率は1/3〜2/3、上限は最大2,000万円で、専門家活用枠の申請受付は2026年11月6日までである。だが買収の対価そのものを賄う制度ではない。対価は自己資金と借入で組む前提になり、その返済原資は、買い取った技術者が将来どれだけの契約を継続して受けられるかにかかっている。

あの点検車は、何を運んでいるのか

橋の下を走る点検車は、新しい需要を運んでいるように見える。実際に運んでいるのは、次の点検の約束である。同じ橋を、数年後にまた同じ車が走る。

その繰り返しを、受注側は何年分、契約として手にしているのか。囲いの中で掘り返される道路を眺めながら、問われているのは工事の量ではなく、その工事を支える資金が何年先の契約に裏づけられているかである。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。

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