成長市場

身寄りなし高齢者支援は「負担」か、創業2年の買収が示す市場

家族が担ってきた身元保証や死後事務は、民間の事業として成り立つのか。創業2年の企業による事業承継を起点に、需要の天井と先行投資の賄い方を探る。

ドリサポ編集部読了 約7分

2026年10月19日、大阪市の株式会社あかり保証は、一般社団法人献身会の高齢者等終身サポート事業(身元保証事業)を、事業譲渡によりすべて承継すると発表した。献身会は関西で業歴13年、会員(契約者)は2026年9月末時点で約700名、累計では約1,600名である。あかり保証はこれを、公開情報で確認できる限り国内初の身元保証事業者間のM&A(合併・買収)としている。譲渡金額は、確認できた資料に記載がない。

買い手の側に目を向けると、様子はかなり違う。あかり保証の創業は2024年7月、資本金は1億円で、弁護士が母体の事業者である。創業から2年あまりの会社が、13年分の契約を引き受けたことになる。承継の発表に先立つ2026年9月25日には業界団体の第一期優良事業者に認定され、10月1日には仙台支店を開設している。

断っておくと、同社は中堅企業ではない。年商数十億円規模の企業が直接参考にできる前例ではなく、提携先や周辺事業の買収で規模を取りにいく動きの一例にすぎない。それでも、この市場で何が起きているのかを読み取る材料にはなる。

なぜ創業2年の会社が、13年分の契約を引き受けられたのか

この問いに答える前に、世間の見方を置いておく必要がある。単身高齢者の増加は社会保障の負担増をもたらすものであり、本人に支払い能力が乏しい以上、民間の事業にはなりにくい。そう考えるのが自然だろう。

数字は、確かにその方向を指している。国立社会保障・人口問題研究所の令和6(2024)年推計によれば、単独世帯の割合は2020年の38.0%から2050年の44.3%へ上昇する。厚生労働省資料は、世帯主65歳以上の世帯に占める高齢者単身世帯の割合が、2020年の35.2%から2050年の45.1%に高まるとしている。令和8年版高齢社会白書も、65歳以上の一人暮らしが男女とも増え、令和32年には男性26.1%、女性29.3%に達すると見込む。

だが、同じ推計には逆向きの数字がある。単独世帯数そのものは、2020年の2,115万世帯から2036年の2,453万世帯まで増えたのち減少に転じ、2050年は2,330万世帯である。世帯総数は2030年の5,773万世帯がピークで、2050年には5,261万世帯となる。頭数の伸びには天井があり、上がり続けるのは割合のほうである。

つまり、需要は爆発的に膨らむわけではない。かといって、負担が増えるだけとも言い切れない。家族が担ってきた身元保証、入院や入所の手続き、死後事務が、世帯の構造変化によって担い手を失う。その一部が民間に移るにすぎない。問われているのは、移った先で誰が選ばれるかである。

規制の薄い市場で、信頼は誰が裏づけるのか

総務省行政評価局は令和5年8月、初の全国調査を公表した。身元保証等高齢者サポート事業者として412事業者を把握し、うち204事業者を調べたところ、サービスを直接規律・監督する法令・制度はなく、監督官庁も事業者団体もないと指摘している。契約内容が複雑で費用体系も明確でないことから、消費者保護の必要性は高いとされた。

なお悪いことに、金の扱いにも不安が残っていた。同調査では、預託金をあらかじめ事業者に預ける形が多いと確認され、過去には保全措置がないまま事業者が経営破綻した事例があった。預託金を法人代表理事の個人名義の口座で管理していた例もある。サービスの提供は数年から十数年先であるにもかかわらず、費用の一部は先に払われる。利用者が事業者を見分ける手がかりは乏しかった。

令和6年6月の「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」は、この空白に最初の線を引いた。内閣官房、内閣府孤独・孤立対策推進室、金融庁、消費者庁、総務省などが共管し、サービスを身元保証等、死後事務、日常生活支援に分類している。預託を受ける場合は、事業者自身の運営資金と明確に区分する。契約が長期にわたり、費用が先行して払われる点も、契約内容の適正さを確保する理由に挙げられた。ガイドラインが事業者を法的にどこまで縛るのかは、確認できた資料の範囲では判然としない。ただ、政府資料は今後、認定制度等の検討にも触れている。

その空白を、民間が先に埋めに動いた。全国高齢者等終身サポート事業者協会は2026年9月25日、第一期優良事業者として8社を公表し、苦情受付窓口も設けた。条件は、国のガイドラインに加え、協会の正会員審査基準を満たし、外部審査員の審査を受けることである。あかり保証はこの8社の一角にあった。創業2年の会社が13年分の契約を引き受けられた背景には、契約の年数ではなく、体制を外から確認できるかどうかが選別の軸になりつつある事情があるのだろう。

先に入る金は、誰のものとして設計するのか

ここで資金の問題が顔を出す。区分管理が前提である以上、顧客から先に入る預託金は、システム、人員、内部統制への先行投資に回せない。初期投資は自己資金か借入で賄うほかなく、契約者が何人に達すれば黒字になるのか、それまでの累積赤字をどこまで耐えられるのかを、事前に試算しておく必要がある。入会金、預託金、月額料金といった収益の入り方と、サービス提供が先にずれ込む構造も、財務モデルの上で分けて扱わなければならない。預り金と収益の線引きが会計上どうなるかは、会計士や弁護士への確認を欠かせない。

需要側の天井も無視できない。厚生労働省の地域共生社会の在り方検討会議(令和7年3月27日)の資料は、この事業は費用が高額になることもあり、一定程度の収入・資産がなければ利用が困難だと指摘する。そのため、資力が十分にない人も使える公的な事業(新日自事業(仮称))が求められるとも記した。公的な受け皿が整えば、民間の価格帯は圧迫される。一方で、民間が担う領域は輪郭がはっきりする。売上の上限は、利用者の支払い能力と公的代替の整備状況の二つに左右される。

周辺事業者の買収は、顧客と提供体制を同時に得られる手段である。ただし、のれん、買収資金、統合コストが先に出ていく。あかり保証の承継は譲渡金額が公表されておらず、価格の相場感は得られない。補助金に頼る道もあるが、中小企業新事業進出補助金は補助率が原則1/2、従業員101人以上で上限7,000万円(賃上げ特例で9,000万円)、下限750万円で、システム構築費や建物費が対象になる。ところが公募は2026年6月に終了し、次回の予定は確認できていない。年商数十億〜数百億円規模でも要件を満たすかは個別の確認が要り、後払いである以上つなぎ資金も別に要る。

認定制度の行方も、投資回収の前提に織り込むべき規制リスクである。制度化が進めば参入の条件は重くなり、それまでは業界団体の認定が信用の代わりを務める。借入の期間は、この不確実な数年を越えて耐えられる長さに組めるかが問われる。

約700名の契約は、何を引き継いだのか

あかり保証が引き継いだのは、約700名の契約者である。累計約1,600名のうち、いま契約が続いている人々だ。身元保証や死後事務は、契約した時点では何も起きず、数年後か十数年後に初めて履行が問われる。承継とは、その約束の履行を別の会社に委ねることでもある。

家族に代わる担い手が必要とされる市場で、資金は預託金という形で先に入りながら、自由に使える金ではない。この構造のもとで、体制を整える費用を自己資金と借入で先に負担できる企業は、どれだけあるのか。買収で規模を取る会社が現れたいま、同じ事業を始めようとする別の企業は、何を先に用意しておく必要があるのか。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の融資判断・税務判断・投資判断を示すものではありません。制度内容は改正される場合があります。実行にあたっては必ず一次情報をご確認のうえ、金融機関または専門家にご相談ください。

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